あけましておめでとうございます

稲毛の浜にはやわらかな光がふりそそいでいます。
2011年。辛卯(かのとう・しんぼう)の年を迎えました。本年も稲毛高等学校同窓会の活動に対するご支援ご鞭撻をお願い申し上げます。
「辛卯」という年は、諸説ありますが、慣れ親しんだ旧体制から新体制へと再生する年なのだそうです。
これまでの方法論は通用しません。新しい発想で前へ前へと歩みを進めていけば、その変化は“新境地への解放”といった感覚で受け取ることができるようですが、旧態依然とした取り組み方のままだと文字通り辛苦を味わう一年になるのだそうです。
今年は同窓会創立30周年の記念すべき年です。そのような年に同窓会の役員はどのようなスタンスで会務を担っていけばよいのでしょうか。
ここのところ組織論をまとめた本を読みあさっていますが、私が大学卒業後就職したテレビマンユニオンという番組制作会社の会長だった萩元晴彦さんという稀代の名プロデューサーが大変示唆に富んだ言葉を遺しておられ、同窓会のあり方を考える上で大いに参考にしています。この拙文のタイトルに使った「あらゆる新しいこと、美しいこと、素晴らしいことは一人の人間の熱狂から始まる」という名言は萩元さんの言葉です。
このブログで、萩元晴彦さんの思い出をご紹介させていただくこともあるとは思いますが、本日は、新春の所信を披瀝する代わりに、萩元晴彦さんが遺された言葉『プロデューサーとは』をご紹介したいと思います。
プロデューサーとは
萩元 晴彦
1.恋する。
恋する。恋せぬ者はプロデューサーではない。けれども、恋する相手は真物であること。能力に応じ、熱中できれば、何人に恋してもよい。誠実であること。恋人Aに恋人Bの存在を知られてもよい。会わせてもよい。AとBが恋し合えば、さらによい。
2.天才を相手にする。
天才を相手にする。天才である必要はない。「天才プロデューサー」は存在しない。「天才音楽家」だけが存在する。天才は「檻に閉じこめると死滅する」猛獣である。プロデューサーは猛獣使いでなければならない。それも檻から出た猛獣の。拮抗する”something”がないと、喰い殺される。プロデューサーは天才を相手にする。
3.説得する。
説得する。プランニングし、演技し、演出し、資金も用意できれば説得しなくてもいい。命令すればよい。プロデューサーは命令しない。技術を練磨して説得する。説得力は企画に対する確信と情熱から生まれる。まず企画。最後は魅力ある人間になること。いるだけで説得したと同じ結果を得る。それが最高だ。全身全霊で説得する。
4.信じる。
アーチストを信じる。プロデューサーの基本はそのこと以外にない。yesと言う。「革命はナインということ、芸術はヤーということ」とはフルトヴェングラーの言葉である。我々は革命家ではない。だから徹頭徹尾yesと言う。信じられるアーチストを作る唯一の方法は…、信じること。
5.哲学をもつ。
もつといっても、哲学はそこに置いてあるものではないから、拾ってくるわけにはいかない。自分で考え出さなければならない。その結果が前人と同じであってもいいが、不思議なことに借り物では役に立たない。プロデューサーは哲学を金主にも雇主にも、芸術家にも、スタッフにも、そしてお客さまにも明快に説明できなければならない。他人が理解できなければ哲学をもったことにならない。
6.夢見る。
夢見る。「プロデューサーに必要なものを全部取り上げる。ただし、ひとつだけ残してやろう」と神様が言ったとする。私ならば躊躇なく「夢見ること」と答えよう。プロデューサーは夢見る。夢見る……。言葉を換えれば「やりたいこと」がある。それがプロデューサーの絶対的条件だ。意外にも「やりたいこと」を持つのは至難である。あなたは今やりたいことがありますか?
7.植える。
植える。温室にではなく、大地に。ときには荒野に。植える、水をそそぐ、肥をやる、草を取る……、そして祈る。農夫と同じである。その作業で農夫が大声を出すだろうか。すべては静かな声で行われる。「我は植え、アポロは水そそげり。されど育てたるは神なり」。バウロの言葉である。植える……。競争の場を与える。そして見守る。
8.需要を作り出す。
表面的な需要がないから供給できないと考えない。ものの需要は潜在しているにすぎない。人々は具体的にどういうものを欲しているか示せない。極論すると受け手にニーズはない。供給だけが需要を作り出す。需要を人工的に刺激するのではない。正しい考えで根気よく供給を続ける。方法はそれだけだ。プロデューサーは供給することで需要を作り出す。
9.統率する。
プロデューサーの仕事は複数の人間とするもの だから、組織の成員を統率して、その能カを最大限に引きだきなければならない。統率する方法はさまざまだが、全員が室内楽奏者のような自由さのなかでいきいきと自発性を発揮し、最後にはプロデユーサーの意図が実現できていれば最高である。統率する。統率とは成員の自発性を統一することである。
10.集める。
人、金、物のなかで最も重要なのは「人」だ。「播かれて良き地にあれば、三十倍、六十倍、百倍の実を結ぶなリ」(マルコ伝第四章)。まず自らの場が「良き地」であること。そのもの、音楽なら音楽、に畏敬と愛情の念を持つ人間を「良き地」に集める。やがて集めるのではなく集まるようになる。
11.献身する。
devote。無条件で、無償で、ひたむきに芸術家に献身する。devoteeは「熱愛者」である。devotionには「祈り」の意味がある。プロデューサーは「愛し祈る人」である。祈りは献身から生まれる。植え、育て、競争の場を作って舞台へ送り出す。そして祈る。
12.見えざる手に導かれる。
説明不能の真実。68年、『カザルスとの対話』を読む。72年、プエルトリコでパブロ・カザルスの撮影に成功。86年、ロンドンでホルショフスキーの名を聞く。87年、ロンドンで演奏会を聴き来日を要請する。同年、カザルスホールオープン。88年、パブロ・カザルスの盟友シュナイダーと共演しカザルスホールにデビューした13歳の相沢吏江子が、カーチス音楽院に入学してホルショフスキーの生涯最後の弟子となる。プロデューサーは見えざる手に導かれる。
13.熱狂する。
熱狂できぬ者はプロデューサーたり得ない。けれども、人間は命じられて熱狂するだろうか。それは「血」である。熱狂する「血」が流れていない者はプロデューサーになるべきではない。あらゆる新しいこと、美しいこと、素晴らしいことは一人の人間の熱狂から始まる。
昨年一年間、同窓会の仕事をしてみて痛感したことは、同窓会役員の仕事とはプロデューサーの仕事とほとんど変わらないということでした。異なる点はといえば「同窓会は利潤を追い求めない」という点と「すべての同窓会役員は名誉職であり一切の報酬が無い」という2つの点です。
劇的な変化が予想される2011年。同窓会にも大いなる変化がもたらされることでしょう。
「あらゆる新しいこと、美しいこと、素晴らしいことは一人の人間の熱狂から始まる」。
萩元晴彦プロデューサーが遺した言葉をいつも胸に、斬新で、人情味たっぷり、そしてどこまでも崇高な同窓会活動を展開していきたいと思います。同窓会の活動に、ぜひ、ご参加ください。
千葉市立稲毛高等学校同窓会長 足澤公彦
追記
萩元晴彦さんは、長野オリンピックの開閉会式の総合プロデューサーを務めた後、2001年にお亡くなりになりました。萩元晴彦さんについては、http://www.shiojiri.ne.jp/~shio/h2htc/h2himself3.htmをご参照ください。
以下の書籍も出版されています。ご参考までに。
『おまえはただの現在にすぎない』(朝日文庫 今野勉・村木良彦との共著)
『萩元晴彦著作集』(郷土出版社 死後編まれた自選エッセイ集)

↑ 2011年元旦の朝日[photo/hironaka]